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直江津さんぽ

直江津
さんぽ
文学の中の直江津散歩 3 小川未明 童話『人魚と赤い蝋燭』の直江津

小川 未明(おがわ みめい) 1882~1961 79歳没

本名は小川健作(おがわけんさく)。「日本のアンデルセン」「日本児童文学の父」と呼ばれます。上越市出身(地元の有名人です)。

小川未明の父澄晴は、上杉謙信の熱心な崇拝者で、謙信の居城だった春日山城址に、謙信を祀る「春日山神社」を創建しました。

未明は15歳頃から20歳頃まで、この春日山神社の境内に住んでいました。

上越市出身の童話作家に小川未明がいます。「赤い蝋燭と人魚」などが有名です。
「赤い蝋燭と人魚」の舞台がどこなのかを未明は明示していませんし明示する必要もありませんが、直江津の人間からすると、文中の「さびしい北の海」という表現は、未明がひんぱんに目にしたはずの直江津の日本海を連想させます。

また、「人魚」は海の中の「岩」にあがって景色を見渡すのですが、直江津海岸から西を見ると沖合に特徴的な「ふたつ岩」があるのが見えます。
たぶん未明もこれを見たんだろうと勝手に想像しています。
(通説では童話の着想は上越市大潟区雁子浜の人魚伝説ということになっていますが大潟区の海に岩はありません)

さて「赤い蝋燭と人魚」の書き出しは以下です。

『赤い蝋燭と人魚』

人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。北の海にも棲んでいたのであります。
北方の海の色は、青うございました。あるとき、岩の上に、女の人魚があがって、あたりの景色をながめながら休んでいました。
雲間からもれた月の光がさびしく、波の上を照らしていました。どちらを見ても限りない、ものすごい波が、うねうねと動いているのであります。
なんという、さびしい景色だろうと、人魚は思いました。自分たちは、人間とあまり姿は変わっていない。
魚や、また底深い海の中に棲んでいる、気の荒い、いろいろな獣物などとくらべたら、どれほど人間のほうに、心も姿も似ているかもしれない。
それだのに、自分たちは、やはり魚や、獣物などといっしょに、冷たい、暗い、気の滅入るそうな海の中に暮らさなければならないというのは、どうしたことだろうと思いました。
(抜粋終わり)

どうでしょう。寂しく暗く、激しい海が見えてくるようです。
それを象徴するのが、印象的な書き出しの「人魚は、南の方の海にばかり棲んでいるのではありません。
北の海にも棲んでいたのであります。」です。これによく似た詩があります。中原中也の「北の海」です。
引用してみましょう。


中原中也(なかはら ちゅうや) 1907~1937 30歳没

山口県出身の詩人・歌人・翻訳家。

代表作に詩集「山羊の歌」、詩訳「ランボオ詩集」など。

『北の海』 中原中也

海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。
曇つた北海の空の下、
浪はところどころ歯をむいて、
空を呪つてゐるのです。
いつはてるとも知れない呪。
海にゐるのは、
あれは人魚ではないのです。
海にゐるのは、
あれは、浪ばかり。

小川未明が「赤い蝋燭と人魚」を発表したのは1921年です。このころ中也は十四歳でした。
そして「北の海」が含まれる詩集『在りし日の歌』が発表されたのは、三十歳で中也が死去した翌年です。
これは妄想ですが、もしかしたら中也は『赤い蝋燭と人魚』を読んでいたかも知れません。
「北の海」と「人魚」という不釣り合いで物悲しい組み合わせがよく似ているからです。
仮に読んでいないとしても、中也の「北の海」は「赤い蝋燭と人魚」の、暗く激しくさびしい直江津の海の光景そのものです。
「浪はところどころ歯をむいて、空を呪(のろ)つてゐるのです。いつはてるとも知れない呪。」
冬、直江津に「浪の呪い」を見にきませんか。


直江津海岸 荒れる日本海

浪の呪い感を出すのに白黒にしてみました。冬はいつもこんなです。
しかし、浪の呪いは実に美しいです。雪が降れば砂浜も白くなります。


さて、「赤い蝋燭と人魚」に戻りましょう、有名な絵本は「いわさきちひろ」の絵によるものです。

「赤い蝋燭と人魚・童心社 1975年6月刊」

この本が出版される前年の8月に、いわさきちひろは病で亡くなりました。
「赤い蝋燭と人魚」は未完のまま遺作となりました(だから傑作のほまれ高い挿絵は、みなデッサンの風情なんですね)。
この本の制作に着手した頃、ちひろは十二指腸潰瘍が悪化し入退院を繰り返していましたが、挿絵を描くにあたって、どうしても本物の日本海を見る必要があると感じ、病に耐えながら長野のアトリエから直江津の海岸まで出かけたそうです。壮絶な意志力です。

※直江津の西の海辺にあった割烹旅館「前崎館」の二階で描いたという話を聞いたことがあります。前崎館の窓からは、まさに沖の二ツ岩が見えます。


夕焼けの直江津海岸

水平線のとこに「ふたつ岩」があります。
え?どれが岩?と思われるでしょうが、目のいいひとは絶対見えます!


船見公園の「赤い蝋燭と人魚像」

新潟県の「文化がかおる1パーセントモデル事業」として平成3年(1991年)に設置した人魚像です。
原型作者は、彫刻家の大道寺光弘さん。

少女の面影の人魚 絵蝋燭を持っています

人魚はうつむきかげんに海を見つめています

この日、人魚が見つめていた夕焼けです

 

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